顔すら見せてくれないのね。
少しは近づけたと思っていたのに、こんなに突き放されてはたまらない。私は、自分がベルナルド様が唯一側にいるのを許す存在だと自惚れていたのだろうか。
結局彼は他者と一線を引き、誰もテリトリーにいれようとしない。
やがて、すれ違いが解消出来ないまま、その日はやって来た。
「久しぶり、エスターちゃん。陛下はまだ自室?会談までまだ時間はあるし、少し休ませてもらっていいかな」
古城への来客は、濡れた髪をタオルで拭くレンテオさんだ。今日が会談当日であり、城までの足として迎えに来たらしい。
外は激しい雨粒が窓を打ち付けていて、風も強い。
「ずいぶん悪天候ですね。道は大丈夫ですか?」
「森は多少ぬかるんでいるけど、なんとか通れるよ。それにしてもすごい雨だ。ちょっと馬車から降りて移動するだけでこの有り様。ひどいでしょ?」
苦笑する彼は、馬車の手綱を握る御者を気にかけながらタオルを手渡している。



