「私は王となった。何も持たない王だ」
「そんなこと……」
「そうなんだ。……事実、この冠は何の役にも立っていない。ただの女を賭けておいて、取り返す力すらない。……今の私は、その程度だということだ」
寡黙な彼が、いつになく饒舌に喋る。
今まで何も言わなかったが、アルフレッドも何も感じていないのではなかったのだ。
「だが、誓おう。……このままでいるものか」
(……キャシディ王子は、今何を考えているんだろう)
身寄りがないとはいえ、ジェイダの故郷はクルルだ。
親しみがあるはずの、自分と同じ色をもった若き王子。
ロイやアルフレッドよりも身近であるはずなのに、今では遠すぎる存在だ。
「アルフレッドが王様になってくれて喜ぶ人が、きっと大勢いる」
それにどうか、彼自身も幸せになりますように。
「それから……ありがとう」
あの日、言い損ねていた。
キースから守るように、乱暴に腕を引いて部屋まで送ってくれた。
正直痛かったし、歩くのが速すぎて足がもつれそうだった。
ロイなら壊れ物のようにそっと触れて、歩幅も合わせてくれたのだろう。
正反対のようだけれど、その優しさや温かさはきっと同じ。
「何のことだ。……まあ、ロイに妬かせる為に、聞いておくのも悪くない」
唇の端を持ち上げ、ニヤリと笑った。
「雨を願うのもいいが。お前らの幸せも、ついでに願っておけ。……それくらい、許されるべきだ」
(物心ついてから、一人ぼっちだって思ってたけど。……私、幸せ者だ)
もちろんクルルにだって友達も、知り合いのおじさんやおばさんもいた。皆、親切だったから、特に困ることもなかった。
けれど、祈り子に選ばれて――怖くなったのだ。
寂しくないと思ったのは、まやかしだったのではないか。
皆一緒にいてくれると思っていたが、本当は違ったのでは?
『ジェイダなら適任だと、満場一致だった』
だって、ジェイダが祈り子に選ばれた時、誰も反対してくれなかったのだから。