ぴこぴこ、ぴた。
ぴこぴこ、ぴた。

子リスはまるで、ジェイダを誘うように跳ねては止まる。


(これじゃ、目的地に着く前に日が暮れちゃうんじゃ……)


もちろん目的地があれば、の話だが。


「でも、こっちは……」


Forbidden Woods――禁断の森の方向だ。


「行きたいの? 」


捕まえて尋ねると、こくんと頷いたように見えた。


「あの森から来たのかな。ここは暑いもんね」


今や砂漠化してしまいそうなこの国で、唯一緑に囲まれた場所。
禁断の森とは呼ばれているものの、特に立ち入り禁止にはなっていない。
足を踏み入れれば迷って出て来られなくなるとか、呪いの霧が出るといった話でもない。
小さいけれど自然豊かな、隙間から降る木漏れ日が美しいところだ。

その名の由来は、隣国・トスティータとの境界にあるからだった。


トスティータ王国。

隣に面しているにも関わらず、クルルとは全く異なる気候と民族を有する。
寒冷で年中と言っていいほど、雲に覆われたその国は、一年の日照時間がクルルの一月分にも満たないという。
とは言えど、ここ数世紀ほど二国間の関係は冷えきっているから、事実か確かめようはなかったが。


「あっ」


ようやく森に辿り着くと、小さな案内係はジェイダの手からするりと逃げてしまった。

せっかくここまで来たのに、もう少し一緒にいたい。
そう思って追いかけると、そこには既に先客がいた。
木の幹に寄りかかり、青年が眠りこけている。
ジェイダは彼の姿に、思わず息を飲んだ。

金色に輝く、羨ましいほどサラサラの髪。
飾り気はないが、上質そうな服から覗く肌は陶器のように白い。

つい、自分と見比べてしまう。

日に焼けた肌と、真っ黒な髪色。
クルルの人々は、個人差はあれど、皆似たり寄ったりだ。

つまり、彼は――。


「そんな顔しなくたって、僕も生きた人間だよ。……君と同じ」


この国の人ではない。
いや、それどころか、彼は――敵国トスティータ人だ。