「運転手さん、行ってください」
タクシーの中から真由ちゃんの声が聞こえ、ハッとした。
戸惑うあたしに、真由ちゃんは何も言わずニカッと笑う。
タクシーはそのまま真由ちゃんひとりを乗せ、走っていった。
健吾とふたりきりで残された、ひとけのない深夜の道路。
灯りのついている建物は周りになく、木々が風に揺れる音だけが、やけに大きく聞こえる。
「巻きこんで悪かったな」
ふいに健吾が言った。
「さっきのあいつとは、付き合ってたことがあるんだ」
「え……」
付き合ってた?
過去形の言い方に、あたしは思わず反応してしまう。



