「や…っ、何すんの。離してよ!」

「聞け」

「離してってば」

「聞けよ、莉子!」
 

怒鳴られたことより名前を呼ばれたことに驚いて、あたしは思わず抵抗をやめた。
 
あたしがおとなしくなったのを見て、健吾はやっと手を離す。

つかまれていた場所が、じんじんと熱を持っていた。


「なんで、あたしの名前……」
 

声を詰まらせながらつぶやくと、健吾は「ああ」とぶっきらぼうに答えた。 


「お前がなかなか教えねーから、ミツルに聞いた」

「………」
 

そんなこと言われたら、あたしは何も言えなくなってしまう。
 

そんなこと言われたら、

あたしはまた、期待してしまう……。