ふり返るとバイクはすぐ後ろに迫っていた。

闇に浮かぶライトの中で、風を切ってなびく髪。

ただならぬ事態に気づいた運転手は、あわててブレーキを踏もうとする。


「止まらないでくださいっ!」
 
あたしは向き直って運転席に叫んだ。
 

今さらどんな顔をして健吾に会えというんだろう。

涙で濡れたこんな顔で、何を話せというんだろう。


「で、でもお客さん」

「お願い! このまま走って!」
 

うろたえる運転手に、声を荒げるあたし。

そうしている間にも、追いついたバイクがタクシーの右側に並んだ。

健吾は威嚇するような目で運転手をにらみつける。

車内に緊迫が走った。


「ダメ、止まらないで――!」


悲鳴のような叫び声と、タイヤのこすれる音が響く中


急ブレーキの衝撃とともに、タクシーはついに停車した。
 


バンッ! 

と大きな音をたててドアが開き、健吾があたしの腕をつかむ。

そして抗えないほど強い力で、タクシーから引っ張りだされた。