「泣いて……ないよ」
そう返した声は空々しく、かすれていて。
頬に手を当てるまでもなくわかった。
そこが涙で濡れていること
そして、どうしようもない胸の痛みも。
だけど誰のせいでもないんだ。
ひとりで期待して、ひとりで傷ついたあたしのせい。
健吾の優しさを勘違いしないよう、あれほど気をつけていたのに
バカなあたしはいつの間にか……。
「ねえ、あれって」
真由ちゃんの声に、あたしは顔を上げる。
ルームミラーに、揺れる光のようなものが映っていた。
涙でぼやけた瞳を細めていると、光は長方形の鏡の中でまたたく間に大きくなっていった。
信じられなかった。
想像すらしていなかった。
まさか、
健吾が追いかけてくるなんて。



