さっきまでの勢いが嘘のように、ミサキの表情はたちまち固まっていく。
周りで見ている真由ちゃんたちも、誰ひとりとして口をきけなかった。
「それで納得すんなら、殴らせてやるよ」
静寂の中、健吾の声だけが響いた。
逆ギレや開き直りなんかじゃない、恐ろしいほど堂々と落ち着き払った瞳。
ミサキは完全に気圧され、言い返すこともできない。
殴るなんてできるわけがない。
誰もがそう思ったはず。
案の定ミサキには、できなかった。
代わりに健吾を殴ったのは――あたしだった。
「り…莉子ちゃんっ!?」
それは無意識としか呼べない行動。
真由ちゃんの叫び声を聞いたときには、右手はすでに手ごたえを感じた後で。
振り切った腕の残像のむこうに、健吾の顔がゆがむのが見えた。
まさかあたしに殴られるなんて思っていなかった健吾は、よろめきこそしなかったものの、呆然とした表情で言葉を失っている。
全員が息をのむ中、あたしは真由ちゃんの手を引いて動き出した。
「……帰ろう」
「ちょっと、莉子ちゃん!?」



