「えっ、ちょっと!?」 驚いてふり返る。 と、男はもう背を向けてカウンターの方へと歩いていた。 なんで……? もしかして、あたしが泣きそうになってるのに気づいたから、優しくしてくれたの? 遠ざかる男の広い背中。 かけられた大きなジャケット。 わずかに鼻をかすめる香りは、彼の香水だろうか。 不意うちの温かさにあたしはうまく言葉が出なくて。 「ありがとう」もろくに言えず、逃げるように店を出た。