『うちにお父さんがいないこと、まわりには話しちゃダメよ』
両親が離婚した10歳のときから、お母さんにそう言われてきた。
家のことを周りに話せば、同情されたり励まされたり、気を使われる。
それが嫌だから、黙ってきたんだ。
きっと真由ちゃんも、反応に困っているに違いない。
「……そっかぁ」
ほら、ね。
どうせ腫れ物に触るみたいに――
「うちも両親がお店やってるから、夜はいないよ」
「え?」
「あっ、そうだ。こんどうちに泊まりにおいでよ!
DVDとか一緒に借りてきてさぁ!
楽しみだなぁ~」
いつもの調子でひとり勝手に盛り上がる真由ちゃんに、拍子抜けしてしまった。
同情されたり、励まされたり、気を使われたり……
どれかだと思っていたのに、違った。
普段とちっとも変らない真由ちゃんの態度。
まるで、別にそんなの特別じゃないじゃんって、言ってくれているみたいに。
「ありがとう……」
気づけば素直に声が出ていた。
「真由ちゃんも、こんどうちに遊びに来てね」
「行く行く! てか実は前から行きたいと思ってたんだ」
「そうだったの?」
「そうだったんだな~」
ふたりで笑い合っていると、かすかにバッグの中が震えた。
「あ、メールじゃない?」



