「俺、ここに来る途中、走りながら健吾先輩のこと思い出してたんだ」
 


その名前を聞いただけで、あたしの胸はドクンと跳ねた。


「健吾を……? なんで……」



「……正直、俺、真由が妊娠してるの知ってビックリしてさ。

こんなとき健吾先輩なら、どうするだろうって考えて……。

そしたら、堕ろすとか考えられなくなった」



「え……?」



「だってあの人、男同士でいるときは口癖みたいに言ってたもん。

“莉子と、未来の赤ちゃんを、幸せにできる男になるんだ”って……」
 



……聞いた瞬間に

涙がこぼれた。




「それにさ……アキさんだって、今、必死で生きようと頑張ってんじゃん?

なのに俺らが、新しい命をあきらめるわけにいかねぇよ」



「うん……」

 


この涙は、忘れることのできない愛しさの証。
 


健吾……


アキ……