「莉子ちゃん、これもよろしくね」
「はーい!」
食べ物のにおい、お酒のにおい、洗剤のにおい。
いろんなものが混じりすぎてよくわからないけど、とりあえずシチューの匂いよりはマシ。
休む間もなく運ばれてくるビールジョッキを、あたしは泡だらけの手でせっせと洗っていく。
『あのね、バイト先の人が急に寝込んじゃったの。
代わりに入ってくれる人を探したんだけど、金曜だから誰もつかまらなくて。
莉子ちゃん、お願い!』
真由ちゃんからそんな電話がかかってきたのは、2時間ほど前のことだった。
テーブルが4席に、カウンターがあるだけの小さなお店。
それでも初心者のあたしには、目の回りそうな忙しさだ。
マスター夫妻が優しい人だから、よかったけれど。



