それからも校内で健吾たちを見かけることはあったけど、自分から話しかけたりはしなかった。
むこうがあたしに気づいたときは声をかけてくるものの、たいした話をするわけでもなく終了、というのがパターンだ。
――『俺だってまだ名前聞いてねぇのに』
あんなことを言っていたくせに、健吾があたしに名前を聞いてくる気配はなかった。
いや、別にいいんだけど。
ガッカリなんかしてないんだけど。
教室ではあいかわらず真由ちゃんと過ごすことが多かった。
健吾の後輩のミツルも、気づけばいつも一緒にいた。
そんな毎日をくり返し、
新緑の5月を迎えたころ。
あたしと健吾の関係を大きく変える
あの事件が起こった。
「え……、出かけるの?」
お鍋をかきまぜる手を止めて、お姉ちゃんの背中にたずねるあたし。
「さっき友達に誘われてさ。だからご飯いらないや」
ごめんね、とあやまるお姉ちゃんはすでにバッグを肩にさげ、出かける準備万端だ。



