「お願い、健吾……。
あたしがこんなこと言うのは、最低だってわかってる。
でもきっと、アキも健吾に来てほしいはずだよ」
緊張と寒さで、唇が震えて、うまく話せない。
あたしは白い息を吐きながら、すがる想いで健吾を見つめた。
健吾は険しい顔で黙りこんでいたかと思うと
突然、あたしの方に足を進めてきた。
ふわっ……と、温かいものが首のまわりを包む。
かすかな香水の匂い。
健吾のマフラーだった。
「健……」
「あいつに、伝言頼む」
力のこもった声で、健吾が言った。
「“俺は絶対に受かってみせるから、お前もがんばれ”」
……泣かないって、決めていたのに。
不覚にも、涙がこぼれてしまって。
健吾はその涙をぬぐおうとした手を、ぐっと止める。
あたしの涙をふくのは、もう自分じゃないんだと、言い聞かせるように。
そしてあたしから目をそらし、試験会場へと向かっていった。



