「細い指だよなぁ」
健吾はそう言いながら、あたしの左手を顔の前に持っていく。
「初めて会ったときのお前さ、この小せぇ手で、カウンターに金叩きつけてたんだよな」
ふたりが出逢ったカラオケ店でのことだ……。
あの頃のあたしはまだ、知らなかったんだよね。
健吾を好きになることも
健吾に好きになってもらうことも。
「入学式でお前に再会して……ジャケット返しにきたお前に逃げられて。
コンビニの駐車場で、お前に殴られたこともあったよな」
「あ、あれはっ。健吾のせいだもん」
「ああ……。悪かったよ」
健吾は慈しむように、あたしの左手をそっと唇に当てた。
やわらかい感触が伝わり、体の芯がぎゅっと締めつけられたみたいに、甘くなった。