「おい、莉子」 あたしのしようとしていることに気づいたのか、健吾の声に動揺がにじんだ。 「莉子、待て」 「………」 「莉子!」 流れる川を目がけ、あたしはスパイクを持つ手を振り上げた。 「……こんなのいらないって、健吾が言ったんじゃない!」 「やめろっ――!」 叫びと同時に電話が切れた。 ――向こう岸の土手を駆け下りる、健吾の姿。 オレンジ色に染まった景色の中 懸命に走るその姿に あたしは、涙が出そうになる。 膝まで濡らして川を渡りきった健吾は、あたしの手首をがっしりとつかんだ。