「健吾のために離婚しなかったなんて……
そんなんだから、彼は寂しかったんじゃないんですか?

そんな責任感だけで育てられて、子どもが幸せだと思いますか?」


「………」
 

一息で言いきったあたしは、小さく深呼吸して、胸にこみ上げるものを抑えた。



「……今、あたしたちはS市に住んでます」


「え?」


「でももう逃げるのはやめにしようって……、帰ろうって、健吾に言おうと思っています」



健吾によく似た瞳が、困惑したように揺らめく。



「勝手なことをして、すみませんでした」
 

あたしは深く頭を下げ、部屋をあとにした。