健吾は唇を噛んで、必死で怒りを鎮めようとしていた。
瞳に浮かぶ怒りの色を、深い失望が塗りつぶしていく。
「莉子」
震える声で名前を呼び、あたしを抱きしめる健吾。
「俺……まじで自分が情けねぇ。お前を守るって決めたのに、何もできねぇのかよ」
「……充分だよ?」
あたしは鼻をすすりながら言った。
「こうして健吾がいてくれるだけで、あたしは充分なんだよ」
健吾の背中に腕をまわし、首筋に顔をうずめた。
肌で体温を感じていると、さっきのおぞましい出来事が少しだけ、記憶の中から小さくなった。
……耐えられる。
どんなに悔しくても、どんなに不安でも。
この温もりがそばにあるのなら
あたしは頑張れるよ。



