とにかくぶつかった人にあやまろうと顔を上げると、
「あれ? もしかして1年?」
その男は急にヘラヘラと気色悪い笑顔になった。
「見たことないし、1年だよね?」
「え、はぁ……」
「こんなとこで何してんのぉ? 名前は?」
完全にからかっている、ナンパまがいの態度。
周りの人も助けるどころか、笑って見ているだけだ。
あたしが唖然としていると、男はさらに調子に乗って顔を近づけてきた。
そのときだった。
あきらかに、空気が変わった。
男の視線があたしの背後に移動したかと思うと、みるみる表情がこわばっていく。
「何、勝手に話しかけてんだよ」
後ろから聞こえた声と同時に、あたしの腕が勢いよく引き上げられた。
何が起こったのか一瞬わからない。
フワッと体が浮く感覚のあと、床に足が着く。
そして、気付いた。
さっきまで遠くから見ていた顔が、すぐ隣にあることに。



