盛り上がっていた彼らのおしゃべりが、ピタッと止まる。
振り返った彼の視線は、廊下を見回して――
あたしを捉えた。
そのとたん、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
「……ごめんっ。これ返しといて」
「えっ、莉子ちゃん!?」
思わず真由ちゃんに上着を押しつけ、あたしは逃げだしてしまった。
自分でもどうしてこんな行動をとったのかわからないまま、とにかく階段を駆け降りた。
逃げる必要なんかないのに。
こんなに鼓動が激しくなる必要もないのに。
やっと足が止まったのは、2階から1階に続く階段に差しかかったとき。
階段を上ってきた男子と、正面衝突して尻もちをついてしまったのだ。
「いっ…たぁ~」
派手に打ったお尻がじんじんと痛み、あたしは涙目でうなった。
……ついてない。
よりによって周りが上級生だらけの場所で転ぶなんて。



