「……失ったものが多いね」
「仕方ねぇよ、自分で決めたことだ。それに、得たものも多い」
そう言った健吾の声には、いつもの力強さが戻っていた。
たとえただの強がりでも、意地っ張りでも。
自分をかわいそうだと決めつけて甘えている人間より、健吾はずっとえらいと思う。
だけど、健吾の本心はそれでいいの……?
「……だからな、莉子」
あたしを抱きしめる腕を解いて、健吾が顔をのぞきこんでくる。
「お前のせいで俺の生活が台なしになったとか、バカなこと考えるな。
いつ捨ててもいいと思ってた生活なんだから」
「………」
「今の俺には、お前がいなくなることの方がよっぽど痛い」
……本当に?
本当に、いいのかな?
自分たちのしていることが怖くて、不安に負けそうになるよ。



