「でもある日、母さんが病気で倒れたんだ」
“母さん”という響きの優しさに、あたしは少し安心する。
だけど健吾の声は、さらに冷たくなっていった。
「もともと体が弱いところに、心労とか重なったんだと思う。
入院して、すげぇやつれて……なのに親父は一度も見舞いに現れなかった。
病室で毎日泣いてる母さんを見たとき、初めて親父に憎しみを覚えたな。
病状はどんどん悪化していって、医者に危ないって宣告された日でさえ、親父は仕事を優先しやがった」
「………」
「でもまあ、母さんはどうにか持ちこたえた。
しばらくして退院できることになったんだ」
「……よかった」
「退院の前日に見舞いに行ったら、よその男と抱き合ってたけどな」
あたしは言葉をなくした。
健吾はあたしの反応なんか求めていないかのように、気にせず言葉を続ける。



