以前、健吾はひとり暮らしを「寂しくない」と言ったけど、そんなはずないと思う。
両親が新しい家に引っ越して、ひとりになったこのマンションに、健吾だけ残る意味があたしにはわからない。
健吾は迷うように視線を泳がせたあと、つぶやいた。
「別に、最初からこうだったわけじゃねぇよ。2年前に新しい家が建ったときは、俺も一度はそこに引っ越したし」
意外な言葉にあたしが驚くと、健吾は肩をすくめて笑った。
「でも俺、その家にすぐ嫌気がさしたんだ。やたらデカイ豪邸で落ち着かなかった。
やっぱり俺には、このボロいマンションがちょうどいいんだよ」
「それで、健吾だけ戻ってきたの?」
「ああ」



