「おかしくなんかないよ……」
頬に触れた健吾の手が、ぴくりと反応する。
「あたしもそうだよ。嬉しいのに、怖いもん」
「……うん」
「ひとりなんか慣れてるつもりだった。
でも、ずっと寂しかった。
健吾に出会うまで、本当はずっと寂しかったの」
――あたしがまだ子どものころ、お父さんが出て行って。
それからは仕事ばかりのお母さんと、ほとんど家に帰らないお姉ちゃんとの3人暮らし。
すごくすごく、寂しかったんだ。
あたしは健吾の手に、自分の手を重ねた。
「健吾……」
「ん?」
離ればなれだった時間、健吾はこの部屋で何を思ってすごしていたんだろう。
ひとりぼっちの、静かなこの部屋で。
「どうして、健吾はお父さんたちと暮らさないの?」
ずっと不思議に思ってきたことを、あたしは尋ねた。



