「そんなの後でいいだろ」
ドキッとして固まるあたしからコップを奪い、健吾はささやいた。
「で、でも、すぐに洗い終わるよ?」
「ダメだ。待たねぇ」
突然、あたしの体を下から抱き抱える健吾。
お姫様だっこというよりは、まるで拉致みたいな強引さで。
「えっ、あのっ」
慌てふためくあたしにお構いなしに、健吾は洋室に入っていく。
そして壁にもたれて座ると、あたしの体を自分の方に向かせた。
健吾の太ももに体重を預け、向かい合って座る体勢。
こんなのはもちろん初めてで、顔から湯気が出そうなくらい恥ずかしい。
「あ、あの、えっと……」
しどろもどろになっていると、健吾の手が優しく頬にふれてきた。
ゴツゴツした指が、あたしの頬や唇、耳たぶをなぞっていく。
まるで存在を確かめるように。



