真由ちゃんが、そんなことを?
 

アキは濡れた髪をかきあげながら、穏やかな口調で言う。


「あんたは人のことばっかり気にしすぎなんだよ。もうちょっと他人を頼った方がいい」

「………」
 

自分でもたしかにそうだとは思う。

誰かに迷惑をかけるくらいなら、自分が少し我慢すればいい、そういう考え方だ。
 

それはあたしが優しいからじゃなく、相手の負担になって嫌われるのが怖いから。
 

家族の前ですら本心を隠して、しっかり者を演じ続けてきた臆病者のあたし。



「あたしね……人に頼るのが苦手なんだ。甘えたらそれで終わりになっちゃう気がするの」


ためらいながら、一言ずつゆっくりと打ち明ける。
 

アキはしばらくの間あたしをじっと見つめると、少しだけ微笑んで言った。


「なるほど、誰かさんにそっくりだな」

「……え?」
 

誰かって、誰? 

その答えは聞かなくてもわかる気がしたし、アキもそれ以上言わなかった。
 

そしてアキはもう一度あたしを見つめ、こう言った。


「頼るのは甘えることじゃない。相手を信頼するってことだ」
 


相手を、信頼……。