「普通だったよ」
「そう」
満足そうに目を細めるお母さん。
普通、という言葉が、この人は大好きだ。
「せっかくの莉子の入学式だから、お母さんもいっしょに行ってあげたかったんだけど。どうしてもお休みが取れなくてね。
最近はどの病院も人手不足だっていうのに、こないだも看護士が3人やめちゃって。
今月だけで夜勤何回あったかしら」
ため息をつくお母さんの後ろで、お姉ちゃんが立ったままミネラルウォーターをぐびぐび飲んでいる。
また今日も朝帰りだったらしく、派手な服装のままで。
コーヒーの匂いと、かすかなお酒の匂いが入り混じる、せまいキッチン。
あたしは焦げた食パンを、もそもそとかじった。
「何? その紙袋」
教室の自分の席に腰をおろしたとたん、真由ちゃんが興味深そうな顔で寄ってきた。
「え、えっと……」
「ん? ジャケット? あっ。男の子のやつじゃん」
あたしが言い訳を探している間に、真由ちゃんは袋の口を広げていた。



