――そう言って飛び出そうと、思ったんだ。

だけど、できなかった。

声は喉を出かかったところで止まり、体が凍りついていく。
 

ななめ後ろからわずかに見えた健吾の顔。

冷え切ったその表情に、身のすくむような恐怖を感じた。
 

今……ここで飛び出したところで、本当に誤解がとけるだろうか。

ミツルの詳しい事情は説明せず、ただ「信じて」と言ったところで信じてもらえる?
 

もし、それで健吾に拒否されたら、あたしはきっと立ち直れない。

怒りはすっかり萎み、不安だけに支配されていった。



「先輩、考えといてくださいねっ」
 

そう言い残して帰っていく彼女たち。

見つからないように隠れていると、健吾の足音も遠ざかっていくのが聞こえた。
 


あたしはしばらく茫然と立ち尽くしていた。

 
ほんの数週間前まで、たしかに存在していた楽しい日々。

ひとつの歯車が狂ったことで、あっという間に崩れてしまったあの日々を、鮮明に頭で描きながら。



「あいつら、ずいぶんガキくせー真似するんだな」
 

後ろから声がした。