「別にあたしたちは莉子ちゃんの悪口言おうと思ってるわけじゃないんです。
でも、何も知らない先輩が莉子ちゃんのことを気にかけてるの見ると、やっぱり教えてあげた方がいい気がして」
そう言いながら、媚をふくんだ瞳で健吾を見上げているのは、トイレで最後に話した方の女子だった。
――『月島先輩が知ったら、やばいんじゃないの?』
あの冷たい声が頭の中でリピートする。
あたしは再び陰に隠れ、耳をそばだてた。
聞かれていることも知らず、彼女はさらにこう続けた。
「あの……先輩。もしかしてこんどの学祭、莉子ちゃんと回ろうとか考えてました?」
健吾の返事はなかった。
ついさっきまで、あたしと学祭の話をしていたのに。
どうして健吾は「うん」って答えてくれないの……?
「もしよければ、あたしと一緒に回ってくれませんか?」
その言葉を聞いたとたん、いっきに頭に血がのぼった。
……ミツルのことを責められるのは、まだしかたないと思える。
だけどそれに乗じて、健吾のそばからあたしを引き離そうとするなんて、絶対におかしいよ。
結局彼女たちは真由ちゃんに同情してるんじゃなく、健吾に近づきたいだけじゃない。
あたしはぐっと拳を握りしめ、大きく息を吸った。
「ふざけたこと言わないでよ!」



