「下から一個ずつ渡してほしいんだ」
そう言ってミツルは、床に置かれた画鋲を指さす。
「あ、うん……」
画鋲の入ったケースを持って、脚立のそばまでいくと、背中に焼けるような視線を感じた。
……ふと、あたしは春休みのことを思い出した。
中学時代に好きだった男の子と両想いになりたくて、女友達に協力してもらうはずだったこと。
だけど裏切られてしまったこと。
恋と友情、同時に失って、何もかも嫌になりそうだった。
あのときあたしには、健吾との出会いがあったから前に進むことができたけど、今の真由ちゃんは……
「おーい、画鋲」
「えっ? あ、ごめん」
ハッとしたと同時に手からケースが滑り落ち、画鋲が床に散らばった。
「大丈夫か?」
「うん。ごめん……」
拾おうとして座ると、ふいに目まいが襲った。
平衡感覚が一瞬失われ、あたしは床に手をついた。



