「あ……」
出てきたのはふたりとも、同じクラスの女の子。
どんな顔をすればいいのかわからず、気にしていないふりをしてトイレから出ようとすると
「真由ちゃんって、ミツル君が好きだったんだね」
ひとりの子が、あたしを呼びとめるように言った。
「……何が言いたいの?」
「別にぃ」
彼女はさっと手を洗うと、鏡の前で化粧ポーチを広げる。
もうひとりの方が、黒々としたマスカラをぬりながら言った。
「友達の好きな人を奪うなんて、莉子ちゃんってすごいね」
怒りより先に、ショックを受けてしまった。
浅くなる呼吸を整え、必死で気持ちを落ち着ける。
これ以上は相手にせず去ろうと思うのに、なぜか足が動かない。
彼女たちはメイク直しを終えると、ポーチのチャックを勢いよく閉めて鏡の前を離れた。
そして、あたしの横を通り過ぎるとき。
まるで死の宣告をするような冷たい声でささやいた。
「月島先輩が知ったら、やばいんじゃないの?」
「………」



