「まだ雨やんでねぇぞ」
それを言われてしまうと、たしかにそうだ。
ベランダの手すりを打つ雨音が、規則的に響いている。
「けど……おうちの人が留守のときに、長居するのも悪いし」
考えた末の言い訳だった。
でもそれは、効果がなかった。
「留守も何も、この家は俺だけだ」
「え?」
「一人暮らし」
うらやましいだろ、と自慢げに言って、健吾はタバコに手を伸ばす。
「なんで……? こんな広いマンションなのに」
「もとは親も住んでたからな。2年前に引っ越してったけど」
「健吾は、一緒に行かなかったの?」
「そうだな」
タバコをくわえて立ち上がり、窓を少し開ける健吾。
雨の音が大きくなった。



