「お前、砂糖とかミルク入れる派?」
「入れない派」
本当は甘党だけど、大人ぶってそう答えた。
「よかった」
と、健吾が笑う。
「そんな気のきいたもん、この家にはねぇからな」
マグカップをふたつ持って、洋室に入った。
さっきの和室とは正反対の、生活感のあふれる部屋だった。
テレビやDVDが所狭しと並び、床には脱ぎ散らかしたシャツもある。
どうやらここが健吾の部屋らしい。
ソファはなかったので、フローリングにぺたんと座ってコーヒーを飲んだ。
雨で冷えた体に、温かい飲み物が心地よく染みた。
「お前、まだ髪の毛濡れてんじゃん」
「え? そうかな」
コーヒーを置いて髪に触れてみると、たしかにまだ冷たい。
毛先から落ちるしずくが、服の襟をしっとり濡らしていた。
「子どもか、お前は!」
そう言って健吾は急に、自分の肩にかけていたタオルであたしの髪をわしゃわしゃと拭き始めた。



