相当使いこんだ感じの、くたびれて靴ひもの擦り切れたシューズだった。
どうしてこんなものが部屋にあるんだろう、と不思議に思ったけれど、よく見ると普通の靴じゃない。
陸上競技なんかで使うような、特別なやつだ。
そっか。
健吾、スポーツやってたんだっけ。
あたしは部屋のすみにしゃがみ、そっと靴を持ち上げてみた。
思い出の重みが、ずしりと手に伝わった。
健吾がこれを履いて走っている姿は、なんだか想像がつかない。
でもきっとカッコよかったんだろうな、と思うと胸が詰まった。
……あたしの知らない健吾が、まだまだいっぱいすぎて。
時々あたしは悔しくなる。
加速する気持ちに追いつかない現実が、歯がゆくなるんだ。
ちょっとずつでもいいから知っていきたい。
健吾の今まで、そしてこれからを。
貸してもらったTシャツに着替えてふすまを開けると、健吾は台所でコーヒーをいれていた。



