「おいしかった…」
朝食が片付けられた部屋
雨登くんは畳で寝そべってスマホを見てた
帰んないのかな?
もぉ帰る?って聞けなかった
「今日、天気良さそうだね!」
窓から外を見て言った
「うん…」
何を話していいか
わからなかった
思えばいつも雨登くんが話してくれて
私が聞いてる
話したいこといっぱいある
恋々のこともっと知りたい
雨登くんが私のことを聞いてくれる
「私、着替えるね!」
「待って…
着替える前に一緒に写真撮ろう!」
昨日も撮ったのに…
「うん…」
雨登くんが私にスマホを向けた
「ヤダ!なんで私だけ?
一緒に撮ろうって言ったのに…」
「じゃあ、早く来て…こっち…」
畳に寝たまま雨登くんが言った
「今、動画撮った
恋々、笑える…」
雨登くんが今撮った私の動画を見て笑った
「もぉ!ひどい…」
「見る?こっち来て…」
雨登くんの隣で一緒に見た
「『ヤダ!なんで私だけ?
一緒に撮ろうって言ったのに…』
『じゃあ、早く来て…こっち…』」
私と雨登くんの声
「かわい…恋々…」
隣で雨登くんの声がして
雨登くんが仰向けのままスマホをかざした
スマホに写ったふたりを見て
ドキドキした
ドキン…
畳の上
浴衣のふたり
雨登くんの隣
カシャ…
カシャ…
付き合ってるみたいだね
カシャ…
「恋々…」
雨登くんの唇が私の耳に触れた
ドキン…
カシャ…
昨日より近いよ
カシャ…
今
私と雨登くんの間には
境界線がない
ドキドキ…
ドキドキ…
カシャ…
カシャ…
シャッター音がなる度に
雨登くんが近くなる
スマホの画面で雨登くんと目が合う
私の鼓動が早くなる
ドキドキ…
ドキドキ…
ドキドキ…
カシャ…
カシャ…
雨登くん
近いよ
「恋々…とめてよ…」
カシャ…
「雨登くん、もぉ、撮らないで…
…
雨登くん、近いよ…
…
雨登くん…ドキドキする…」
雨登くんのスマホの画面が暗くなって
直接目が合った
「恋々…好き…」
ドキン…
雨登くんがゆっくり
もっと近くなった
ドキドキ…
ドキドキ…
触れそうなのに
触れなかった
雨登くんは
そのまま目を閉じた
ドキドキ…
ドキドキ…
雨登くん
私は
雨登くんみたいに嘘つけない
「雨登くん…
…
私も好き…」
ドキドキ…
ドキドキ…
私の胸の音だけ
残像みたいに
部屋の中に広がった
雨登くんは
約束を守った
なにもしない
なにもしてないのに…
私が勝手に
ドキドキしただけ…
私が勝手に
好きになった



