何度か問いかけようとして、結局やめてしまった。

きっと教えてはくれないのだろう。一人で考えている間に保健室らしき場にたどり着いた。部屋には、当然白いベッドが置かれている。きちんとリノベーションされているらしく、セミダブルくらいのサイズの上に、柔らかそうな布団が乗せられていた。


「俺は隣の部屋にいる。何かあれば呼べ」

「あ、はい」


同じ部屋じゃないのか。

心の奥底にあった言葉に自分で驚いてしまう。同じ部屋なわけがない。同じ部屋だったら、混乱してどうにかなってしまっていたかもしれない。

一人で目を白黒させていれば、首を傾げた花岡がこちらを見つめてくる。

慌てて首を横に振った。


「何でもないです……、おやすみなさい」


言い切って、笑顔を必死に繕った。花岡が観察するように私を見つめて、やさしい指先で髪の毛の先に触れてくる。

まるで恋しい人に触れる指先だ。

懲りずに思ってしまった。恋人などつくる暇もなかったから、本当に恋人に接する指先なのかはわからないけれど、どう見てもこの時の花岡は、私を慈しんでいたと思う。


確かめるように髪の先を撫でて、ゆっくりと、耳に唇を寄せる。束の間の出来事のようで、永遠の時間が流れたような気がした。


「おやすみ」


その言葉を誰かにかけられたのは、何年ぶりだったのだろうか。閉じられた扉を見つめながら、ただ思い続けていた。