身代わりでも傍にいたかった


自分が本当に行きたかった職種では無い会社は私には地獄だった。

華やかなマスコミ関係を目指していた私には
全てが地味に平凡な日常、人間、仕事としか思えなかった。

勿論、口には出さないが・・・

翔と楽しく過ごせると思っていたのに
翔はあれから口を利いてくれないだけでなく
私とは知り合いでも無いと言い切られた。

一か月の研修後の配属先が発表になった時、
翔は本社勤務だったが私は新宿支社勤務の内示が下りた。

よくよく聞くと本社勤務は新入社員の3割弱。
自分の考えの甘さ・・
翔にも無視され、私はなんの為にこの会社に入社したのか最早解らなくなっていた。

自分では仕事も覚えようと努力していたし、
人間関係も円滑にすすめられるようにしてきたつもりだったけれど、

ある日 昼休みに化粧直しのついでに個室にはいっていると
何人かが入ってきた

「桑野さん、相変わらず凡ミス多いわよね」

私の名前が出て緊張する。多分、教育係の3年先輩の人だ・・

「そうなのよ。もう入社して三ヵ月も経っているのに新人気分が抜けない・・
なまじ可愛いから男子受けがいいから注意するとこっちが悪者みたいな雰囲気になって
扱いづらいわ」

「どんくさい子とか物覚えが悪い子、毎年色々居るけど桑野さんみたいに
無気力な子って一番面倒よ」

「腰掛みたいな感じで入社してもらいたくないわ。」

「だから女は・・と言われるのは私達なのに・・」

私はその内容に固まる・・

そんな風に映っているんだ・・でも反論出来なかった。
事実だから・・

腰掛では無いけれど翔と距離を縮めたくて、
一緒に社内恋愛したくてエントリーした。

翔との事が無くなって颯真とも上手く行かなくなって(やさぐれてる)
と揶揄するのが一番今の私には合っている。

抜け出さないと、頑張らないと思ってはいるのに気力が湧かない。

会社から出たらそこには背広に身を包んだ颯真が迎えに来てくれている・・
そう毎日期待して会社を出る。
当たり前だけれど颯真はそこには居ない。


街の銀杏並木が黄色に染まる頃、休日に母と渋谷に買い物に出た。

学生の頃は休日に親と出掛ける事は滅多に無かった、
颯真とデートしたり四人で海や遊園地に行ったり真央とショッピングに行ったりしていた・・

そんな事を想いながら交差点で待っていると少し前に懐かしい背中を見つけた・・

(颯真だ・・)

私は颯真に無意識のうちに近づこうと足を踏み出そうとした時、

颯真が横を向いて女の子に話しかけた・・
その眼は私を見ていた時と同じ眼をしていた・・・

信号が変わり皆が一斉に歩き出すと

颯真の左手と彼女の右手が恋人繋ぎをしているのが目に入った。

颯真の中では私なんてとっくに居なかったのだ・・

あの日 私は雪山に落とし物をしてきた
それは東京に帰ってきたら手元に戻って来ると思っていた。

でも、雪は永遠に解けない、落し物は私の手元には決して帰って来ない。