夏海サイド
もし、人生をやり直すことが出来たらどこからやり直す?
高校一年で翔に告白する?
大学で真央に声を掛けない?
大学三年生の時に飲み会帰りの翔の友達と会わないように違う場所に行く?
就職先を自分が本当に行きたかったマスコミ関係にする?
バレンタインデーに翔に告白しない?
あれこれ考えを巡らせていると賑やかな声と共に
若い女の子二人が露天風呂に繋がる扉を開けて入ってきた。
私の思考は一時中断する・・・
「本当に格好良かったね」
「同い年位かな?」
「今日も居たら私、声かけちゃおうかな」
「え、もしかしたら彼女と一緒に来ているかもよ」
「いやいや彼女と居たら夜にバーラウンジに一人で居ないでしょ?」
「スキー場マジックかもよ」
「バーラウンジでウェア着てないから・・中々白いタートルネックニットにジーンズのシンプルな格好であんなに格好いい人居ないよ」
彼女たちの会話に固まる・・・
昨日、颯真はその格好で私をベッドに押し倒した・・
そして出て行った・・・
彼女達が話しているのは間違いなく颯真の事だ・・・
(なに勝手に人の彼氏を狙っているのよ)
(勝手に彼女居ないとか思い違いをしないで欲しい)
(スキー場に一人で来る馬鹿いないでしょ)と頭の中で毒づく。
「お風呂から出たら私ラウンジに行く!」
と彼女は高らかに宣言をして露天風呂を後にした・・
彼女たちの言動からもし今日、颯真が又出て行ったら戻ってこないと思った。
その考えに胸が痛く苦しくなった。
颯真が他の子と・・
あり得ない事では無かったさっきまでの自分の態度を想えば・・
心臓がドキドキと嫌な音を立て始めもう、
お風呂に入っている余裕なんてなかった・・・
(謝らないと・・)
自分が勝手に翔に告白して振られて落ち込んで・・
失恋した気持ちを颯真が理解してくれない事にイライラして
余りにも身勝手な自分に今更ながら気が付いた・・
私、馬鹿だ・・・
あんなに優しい颯真になんて事をしているのだろう・・・
謝らないと・・
颯真が誰か他の人に・・と思うと胸が苦しくて・・
髪の毛も乾かさないで急いで部屋に戻る・・・
謝らないと・・
「お帰り」と颯真が声を掛けてくれる。
「うん・・ただいま・・」
謝らないと・・緊張して言葉が続かない・・
「夏海、俺 明日朝帰るわ・・」
「え・・」何を言っているの?
「夏海は予定通りスキーしてからの新幹線にしな」
「・・・・」
待って、待って私の話も聞いて・・と口にしようと思ったのに・・
「じゃ、俺寝るわ」
と背中を向けてベッドに入ってしまった颯真。
昨日の私のようにシャットアウトされたみたい・・
もう、声かけちゃダメなのかな?
それでも今日はバーラウンジに行かない颯真に安堵していた。
明日謝ろう。
明日の朝のほうが私も考えがまとまって上手に話せるかもしれない
夜より朝の陽ざしの方が旨くいくような気がする。
6時にスマホのアラームをセットしてベッドに入った。
直ぐには寝付けなかった・・
だからか颯真が出て行ったのも気が付かないで眠り続けていた。
「ピピピ」聞きなれたアラームが鳴って起きた時には
ベッドは整えられていて温もりも荷物も無かった。
昨日は感じなかったのに部屋は凍えるように寒く、広く、暗く感じた・・
朝食を食べる事も忘れ、チェックアウトギリギリまで部屋で茫然と過ごした。
その間スマホは音一つ鳴らなかった。
私は何度もメッセージを入力しては消した。
自分が何か言える立場なのか・・
無視されたら・・
なによりも優しい颯真が私を大好きだって
昨日まで求めてくれていた颯真が私を捨てるなんて思いたくなかった。
颯真からきっと連絡をくれる筈・・と思いたかった。
直ぐにメッセージを入れれば良かったのに
時が経てば経つほど連絡がしづらくなってしまった。
今更何て言えば・・
結局私は何も行動を起こさず謝らず
颯真と話す事も出来ないで大学を卒業した。
それでも心の何処かで颯真の仕事が落ち着いたら連絡くれる筈・・と
心の何処かで颯真の優しさに好意に甘えていた。



