家には連れて行って貰えないけれど、真央のテリトリーには
連れて行ってくれるらしい・・
少し安堵したのも束の間「藤原君」と真央の口から発せられる・・
なんだよそれ・・
(藤原君)なんて出会った日に一回、呼ばれただけじゃないか
俺が真央って呼んでいるのだから俺の気持ちは変わっていないって気づけよ!
一生懸命に真央って連呼しているのはそう言う事だよ。
そんな、あどけない顔して普通に喋るなよ。
そんな、普通な笑顔で友達に話すように話すなよ。
真央が普通に話せば話すほど、俺の心は荒んでいった。
それでも真央に会えた嬉しさもあった。
真央について入った店は、真央の日常が垣間見える場所で
その日常を見せてくれた事に安堵する自分がいた。
食事前、食後、自分の思いを乗せて一生懸命に誤解を解く。
真央と話していて自分の身勝手な思い込みが真央を傷つけていた、
言わなくても解る、
言うのが恥ずかしいから、と口にしなかった
「すき」・・たった二文字を口にしていたら
こんなにすれ違わないで済んだと・・
真央、これからはキチンと君に思いを伝える。
友達には会わせたくはないけれど真央の存在を知らしめるよ。
だからもう一度・・・
真央が自分の腕の中で安心し眠りについている・・
あんなに頑なに部屋に行くのを拒んだのに
今はその部屋のシングルのマットレスで、俺の腕の中で寝ている
背中にキスをする。
その背中は三か月前より骨がハッキリ浮いていて、
更に痩せた事を物語っていた。
「真央、愛しているよ」
と囁きながらキスをおとす。
この部屋が真央の苦悩を物語っていた
何度も肌を重ね、一緒に寝たベッドも無く
ペアで揃えた食器も無くなっていた。
この部屋に俺との思い出は何一つ無かった
その事実が苦しくて切なかった・・・
俺の前髪を触る指先を感じながらも目を閉じたままで居ると
「翔 寝ている?」
「寝ていないよ昔を思い出しているだけ・・」
と目を開けると俺を見下ろす真央の瞳と交差する
「隣おいで」
と開いている方の手でそこをポンポンと叩くとストンとソファの隣に座り俺の肩に頭を置いて
「翔が足りない」
「ふふふ 俺も真央が足りないよ」
と笑いながら答えながら真央の右手を握ると
縋るように左手を俺の左手に巻き付ける姿が可愛くてキスをする。
優しく啄むように・・
「ふぇ~」
「あ、起きちゃった・・」
微妙な顔を一瞬したけれど直ぐに母親の顔に戻り俺の胸から泣きだした息子を抱き上げる。
あれから五年が経ち俺達は親になった。
学生の時には喧嘩もしなかったのに
一度別れを経験した俺達は言葉の大切さを痛感して
自分の思いを口にする事をルールにした結果、
考えの違いや、生活様式の違いで些細な喧嘩になったが、
これも約束で喧嘩していても一緒に寝る、
落ち着いたら謝る、
そして許す事、歩み寄る事を決めてから
学生の時よりもお互いを理解出来るようになった。



