並んで駅まで歩く。
久しぶりなのになんの違和感も無く寧ろ心地よかった。
翔の匂い、さりげなく人にぶつからない様にしてくれる仕草は懐かしかった。
何時もこうやって守られていた過去を思い出すと目が霞んだ。
「今日の洋服初めて見た」
「うん。うちのブランドなの。」
今日の私はサーモンピンクの総レースのワンピースに黒いカシミヤの薄手のショールを掛けていた。それにヌバックのベージュのヒール。
「身体のラインがハッキリ解る洋服を真央が着ているのを見慣れないから緊張する。髪の毛もいつも下ろしていたよね」
「やっぱり学生と社会人じゃ違うからね。私、初日にほぼ、スッピンで出社したら先輩に怒られて{社会人は学生と違う!アパレルは私達が歩く宣伝なの}とその通りだよね。それから先輩に教わってナチュラルメイクをね・・アイブローしてアイライナーを引いている。それだけで顔って変わるから不思議。先輩曰く私の顔だとこの位の化粧で丁度良いらしい・・髪の毛も結局仕事中に邪魔になるから簡単なアレンジを覚えました。」
「少し会わないだけで知らない真央が居て寂しい・・」
そんな事言わないで胸がキュンとするから。
折角泣かないで寝られるようになったのだから・・
「靴もヒール履いてる」
「うん。通勤用だから5㎝ヒールだけどね。社内だと8㎝ヒール履いているよ。このワンピースも自分では選ばないデザインだけどプレスのお世話になっている先輩に入社前の3月に社販に来た時に勧められて似たようなワンピース10着買ったの」
「え、10着?・・結構なお値段のブランドとの認識ですが合っていますか?」
「合っているよ。でも、これは私達にとっては制服だから・・からくりを言っちゃうとサンプル商品なの。普段は5掛け販売だけれどシーズンが終わる頃に3掛けになって最終1掛けになるの。10万円のが1万で買えるの。ただし一点物だしサイズもモデルさんに合わせているから・・ただ、今モデルをしてくれている女優さんと私がほぼ同じサイズで・・沢山残っていたからアドバイスに従って購入したの。やっぱりデザイナーさんも着てくれると嬉しいからね。会社の士気もあがるの。新入社員の私には本当に有難い制度だよ」
三ヵ月も会っていなかったとは思えない位私達は普通に会話していた。
ただお互い時々敬語が混ざってしまうのは緊張しているせいだと思った。
「あ、このお店です。見た目は一見さんお断りに見えますが全然違うので」
と言って扉を開ける。外観と違い中は昔ながらの洋食屋さんの雰囲気。
ママが「真央ちゃん、いらっしゃい。奥の部屋使って」
「ご無理言ってスミマセン」
「大丈夫よ。丁度真央ちゃんの電話の数分前にキャンセルの電話貰ったの」
「真央、良く来るの?」
「へへ、実は週に1回は来ます。疲れて何もしたく無い時には週3回来たことも・・敷居が高い感じがするでしょ?引っ越してきたばかりの頃何回も店先で立ち止まって窺っていたの。でも、入る勇気無くて・・そうしたらたまたまママが出てきて今日、絶品カレーがあるわよ。と言ってくれて・・カレーならどんなに高くても大丈夫かな?と思って入ったのが最初。凄く美味しくて安くてそれからは虜」
「真央のお勧めは?」
「なんでも美味しんだけど藤原君はハンバーグ好きだからハンバーグは?」
「藤原君って・・」
呟く声が聞こえたけれど聞こえないふりをした。
名字で呼ぶそれは私の意地。
「私はドリアにしよう」
注文を終えてママが出ていくと支配する沈黙。



