18時15分。
退勤システムにカードをかざし
「お先に失礼します」
と声を掛けてエレベーターに乗り込む
「真央ちゃん、お疲れ。今日はもう帰れるの?」
「はい、漸くトンネルを抜けました。久々の定時です」
「これからお出かけ?」
「金曜日なのに予定がないのでジムに行って帰ろうかと・・」
「真央ちゃんなら誘ってくれる人沢山いるでしょ」
「いませんよ」
とプレスの頼れるお姉さまと話しながら会社を出る
「三沢さんスタジオですか?」
「そ、撮影が押しているから・・又、月曜にね。真央ちゃん、そのワンピース良く似合っている」
と会社の建物の隣のビルに向かう。その背中に
「有難うございます」
と声にだす。
駅に向かおうと足を踏み出した瞬間に
「真央」と・・
振り返らなくても解る。
その声は・・立ち竦む私にもう一度
「真央」と・・
振り向いてはいけない。
翔と会わなくなって三ヵ月・・
着信拒否しているから鳴らないスマホを見る事も無くなった。
引っ越し先を知らないのにインターフォンが鳴る度に翔が来てくれた思う事も無くなった。
ここで振り返ったら又あの苦しみを味わう・・
私は走って逃げようとした。
「逃げないで」
私の動きが解っていたかのように先に言われてしまう。
諦めてユックリ振り返る。
そこに居るのは私の知っている大学生の翔ではなく社会人の翔だった。
背広に着られているのでは無く背広を着こなしていた。
自分から離れたのに背広に着られている翔も見たかったと・・・
ユックリ翔が近づいてくる・・
何か言わないと、と思っても何も浮かばない漸く出た言葉は
「元気?」
だった。
余りにも陳腐で自分で可笑しくなってフッと笑ってしまった。
「元気なんか無いよ」
何で?漸く夏海と堂々と一緒に居られるようになったのに??
「話し出来ないかな?」
「少しなら」
「どこか静かに話出来る所ない?」
「カラオケでもいい?」
「カラオケ行きたくない・・真央の家は?」
「ゴメン。それ無理」
一寸待ってと私はスマホを取り出し電話を掛ける
「じゃあ、20分後には行きます。」
と言って電話を切る
「ここから電車に乗るのだけれど私が良く行くお店の個室が偶然キャンセル出たから・・そこで良い?」
「うん、本当は真央の家が良かった。」
「それは無理だよ。」



