念押しの一言を小声で囁いた後、彼の顔は俺から離れる。

その脅迫に背筋を凍らせ、顔を上げられないままでいた。

「あ、すみません。もう出ますんで…」

彼の取って繕った高目の声が聞こえると、傍にオーナーの気配を感じ、足元の小綺麗なスニーカーが視界に入る。



…関係ない人を巻き込むわけには、いかない。



なんとかやり過ごそうと緊張のせいか、何故か息を止めてしまった。

テーブルにコーヒーを置いたのか、カチャンと食器の音が聞こえる。



罪のない人を巻き込むわけにはいかないんだ。

早く。早く向こうに行ってくれ…。



そう念じてはいるものの、彼女の足はなかなか動かない。



そして、もう一度。

カチャンと音が聞こえた。



「…あなた、うちの常連さんに何してくださいますの?」