目の前に突如として現したその姿に。

俺はただ、身動き取れずに絶句するしかなかった。



「遅れてごめん、待った?場所がわからなくてね?」

「………」



そう言って、俺のもとへと警戒なく近付いてくる。



…いや、待ってない。

俺が待っているのは執事の忠晴であって、少なくとも貴方では…!



現れたその人物は、あたかも俺とここで待ち合わせをしていたかのように振る舞っている。

その図々しさにも、言葉が出ない。



何で、この人が堂々とここに来るんだ?



艶のない黒髪に、不健康そうな白い肌と細い体のライン。

黒いブルゾンは羽織っているもの、そのインナーは白いタンクトップ。

その、死んだような目…。



紛れも無い。

先月…オガサワラリゾートのホテルで敵対し、騒ぎの張本人。

そんな彼の突然の登場に、無意識に息を止めていて、心拍数が段々上がっていくのがわかった。



「久しぶりだね?橘くん」



その姿は、あの黒い翼の彼。

リグ・ヴェーダ。



何で、彼がここに…!