「…なずな」



愛おしいその名を、なんとなく呟いた。

起こそうとしたわけじゃない。ただ、その名を口にしたかった。



だが、俺の小さな呟きは眠っているなずなには届かず。

何の反応もなく、すやすやと眠り続けている。

やつれて顔貌が変わっていようが、その寝顔は愛くるしいもので。

想いが込み上げると、顔を近付けていた。

額をそっと合わせて、フードの上から小さな頭を撫でる。

夢の中で蟲の知らせで感づいたこともあり、寝息を感じては、改めてその決意を固めていた。



(絶対に…)



起こさないよう、そっと布団を出て部屋を後にした。








「嫁入り前の女性の部屋で一夜を明かすのは、どうかと思いますが」



試合、部活も終わり、夕方。

迎えの車に乗り込んだ早々、忠晴から厳しいお言葉をかけられる。

バレちゃってた…。



「…ただ、添い寝してただけだよ」

「内容はさておき、婦人の部屋で一夜を明かすことが問題なのです。紳士として、距離感はマナーですよ」

「今時そんなのあるかよ…」