だが、吠えていた勢いはどこへやら。
『いらっしゃいませ、橘様。ようこそお越し下さいました』
店員さんの品のある静かな接客。
高級店ならではのオシャレだけど重厚感のある内装。
『………』
いつも通うチェーンのレストランとは違った雰囲気に呑まれたのか、ヤツは、店内に入った途端、急に借りてきた猫みたいに大人しくなった。
案内されている最中、黙って俺の後を着いてきていて、気になって後ろを伺うと…キョドり気味となっている。
客はたくさんいるのに、この高級店ならではの静かさに萎縮しているのか。
…前にも、こんなことあったよな。
さっきの威勢のよさは、どこへ行った。
おおぉぉ!と、叫んでみろ?
だが、次にヤツの口から飛び出た言葉は、そんな野太い叫び声ではなかった。
予約していた個室に案内され、店員さんが『支配人呼んできます』と退室すると、ようやくヤツは声を発する。
『うわ…部屋広っ!肉食うだけなのに、こんなに広いって…!ソファー置いてあるし!』



