でも…陰陽師でなければ、みんな、たくさんの有難い温かみのある心には、触れていない。
陰陽師でなければ、伶士とも出逢えていない。
ここでワガママ言っていたら、大切なものを…伶士を救えない!
ここで泣き言吐いて放り投げたら、誰が伶士を護るんだ?!
護る、その為に。
やっぱり、私は陰陽師でいるしかないんだ…!
私が、私でいられるためには。
少しの間、頭に過った葛藤は振り切って、体の中にあるありったけの霊力を放出することに集中、全力を注ぐ。
力を込めると、黒炎の勢いは更に増す。暗幕のように私らを包んでいた。
足元で小さな爆発が起きて体が揺れる。
でも、獲物だけは絶対に離してはならない。もう感覚が無くなってきた腕と支える下半身に、気力だけでこれでもかと力を込めた。
「ああ…あぁ…ぁ…」
腕の中の花魁女郎蜘蛛が、ようやく大人しくなってきた。
…もう、丸焦げで炭化してるじゃねえか。
ここまで上手く行くとは思わなかったけどな?
こいつもこいつで、まさか奇襲であっという間にこんな丸焼きにされるとは思わなかっただろう。
「す、水晶鬼さまぁ…」



