「…拓狼さん」

「何ですか?」

「『正義の味方』って何」

「へ…」



倫理哲学の論議が繰り出されるような話題を吹っ掛けられて、綾小路は多少戸惑う。

しかし、それは敵さんの口から度々飛び出るワードだというのは、綾小路も把握済みだ。

自分らを悪者扱いし、正義の味方と謳うのか。

ヤツから度々飛び出るクレームだ。

だが、こっちサイドはそんなつもり微塵もない。

若きボスらは、むしろ自分のことを『復讐に燃える悪』と言い切る。

それゆえ、まさかのまさかで、この彼が『人の道』を踏み外しやしないか、大人たちはヒヤヒヤしている。



(『自分らは悪を倒す正義の味方』と言い張ってくれる方が良かったんですけどねー?…)



「剣軌くん、これだけは言っておきます。ありのままに生きるということが『正義』ではありませんよ?」

「…へぇ」

「この世の中、何が正しい何が間違っているのかなんてわかりません。もはやそれは自己満足に溶けたものが多いでしょう。なので『正義』とは、自分の掲げた信念ぐらいの小さなスケールの物に留めておくべきです。…実際そんなもんなんですから」