親父が使っていたのを傍から見ていた時は、この黒炎が『華』を象っているようで、不謹慎にも綺麗だと思ったが。
…本当に、不謹慎だったことが今ならわかる。
これは、綺麗なんてもんじゃない。
地獄。炎の地獄だ。
「ああぁぁっ!…離せ!離せぇぇぇっ!」
羽交い締めにしている花魁女郎蜘蛛は、腕の中からすり抜けそうなぐらい、獰猛にのたうち回っている。
それもそのはず。術式の発動と同時に右腕だけではない、すでに全身に黒炎が燃え移っており、その身を焼き尽くしている最中なのだ。
想像を超える苦痛が続いているはず。
…でも、まだ。まだだ。
「…まだ、まだ死ぬ訳にはいかぬぅぅっ!死ぬ訳には行かないのだぁぁ!ああぁぁっ!」
何を自分本位なことを言ってやがる。
そのセリフ、おまえが喰って乗っ取った辻恵美さんに代わってそっくりそのまま返してやりたいわ。
…彼女だって、どんなに無念だったか。
まだ死ぬ訳には行かないって、思っていたかもしれないのに。



