伶士は、誰にも渡さない。
全身を使って、花魁女郎蜘蛛を背後から羽交い締めの状態にした。
そして、私は言霊を口にし、術式を完全発動させる。
「…漆黒の火炎、金赤の闇…」
私の言葉ひとつに、生きたように揺らめいて反応する黒い炎。
捕らえるのは右手だけではなく、花魁女郎蜘蛛の体のあちこちから、プスプスと火種が燻り始めた。
「ああぁぁぁっ!」
更なる苦痛をまともに浴びて、花魁女郎蜘蛛は悲鳴を響かせる。
…この術は、禁呪。私自身が術陣。
手練れの親父とは違って、私にはこの禁呪を何回も発動させることは出来ない。せいぜい一回だ。
だから、標的を羽交い締めにでもして、逃げられないように…確実に術を喰らわすには、この方法しかなかった。
陰陽師であり、ボディガードのプライド。
…そして、女の意地だって見せてやるよ。
「黄金の地獄…【黒炎の華】」
技の名を呼ぶ。
私の声に反応して、一気に黒炎の柱が立ち込める。
私達を包むように黒炎は噴き上がるように立ち上り、目の前の景色は炎で遮られた。



