幸せを手にしないことは、ただの自己満足だ。


それでもそうしないと自分が納得してくれないのだ。


自分から幸せに手を伸ばした瞬間、今までの生活がすべて崩れ去ってしまう。


そんな恐怖心もあった。


「今日はなんか辛気臭いなぁ」


勇人がそう言ったのは、放課後になってからだった。


すでにみんな教室から出て行っており、残っているのはあたしと勇人の2人だけだった。


あたしはいつものように宿題を机の上に広げている。


勇人は部活に行くとばかり思っていたけれど、こちらへ近づいてきた。


「どうしたの?」


宿題から顔を上げて聞くと勇人はニッと白い歯をのぞかせて笑った。


「今度の休み、どっか行かないか?」


「え?」


突然の誘いに咄嗟には返事ができなかった。


「泉も呼んで3人でさ、遊園地でも行こうぜ」


続けて言われた言葉にホッと胸をなでおろす。


2人きりで、という意味ではなかったのだと思い、苦笑した。


何を期待しているのだろう。


期待したって、デートの誘いとなると自分から断るくせに。


「いいね、遊園地」


友達と3人でなら、もう1人の自分も許してくれるだろう。


「よし、じゃあ決まりな! 集合時間と場所はまた相談して決めようぜ」


勇人はニコニコと嬉しそうに言い、体操着を手に教室を出て行ったのだった。